伝統と革新が交差する麹・清酒酵母が生み出す日本らしいビール文化 日本オリジナルのビアスタイルを探る旅 Vol.30
- こぐねえ

- 7月30日
- 読了時間: 8分
「日本らしいビアスタイルとは?」という問いを続けるオンラインイベント「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。第30回は、2024年に初開催されたイベントの発展形として「和ノ麦酒祭2026」の会場でリアルイベントとして行われました。
今回は主催者であるCYORYO Craft Beerのヘッドブルワー・樋代卓矢さんとブルワーの宮崎達也さん、そして本企画の進行を務める谷さんを交えてトークセッションを展開。イベントで提供された7種類のビールとフードのペアリングを行いながら、「日本らしさ」を追求しました。
7つのビール紹介とペアリングの感想
今回の「和ノ麦酒祭2026」のテーマは「日本酒酵母」。日本古来の発酵素材を活用したクリエイティブなビールが数多く登場し、2年前の第1回開催時に見られた手探り状態から、劇的な進化を遂げていました。
① 和響 -Sake Sour Ale W/ Aritagawa mikan(CYORYO Craft Beer × NOM CRAFT BREWING)
ビアスタイル:Sake Ale
アルコール度数:6%
酵母:多酸性酵母(自社酵母)
麦芽:Pilsner、Acidulated、Wheat
ホップ:Idaho7、Motueka、Citra
副原料:白麹、米、みかんピール、青蜜柑ピール
リンゴ酸を多く生成する多酸性の清酒酵母と、クエン酸を持つ白麹を組み合わせた一杯。バーのカクテル手法である「スーパージュース」の概念を応用し、疑似的な柑橘果汁感を創出したサワーエールです。
「これが一番、酵母の香りを綺麗に引き出せたと思っています。すごくフルーティーな香りですね。1〜2月ごろのリリースだったので、少しずつ柑橘の香りが落ち着いてきてまとまりが出ており、逆に今が一番いい状態だと思います」(樋代さん)
【ペアリング:メロンと生ハム】
メロン自体が持つ果実の酸味・甘みと、日本酒酵母の酸味・甘みが綺麗に重なり合い、絶妙なハーモニーを醸し出します。最後に生ハムの塩味が全体をまとめてくれる極上のペアリングです。
② 初風(さかづきブルーイング)
ビアスタイル:Sake Yeast Beer
アルコール度数:3%
酵母:きょうかい9号
麦芽:非公開
ホップ:非公開
副原料:白麹、柚子
さかづきブルーイングのラインナップの中でも低い「アルコール度数3%」を実現。ユズの香りと白麹の爽やかな酸味が特徴のビールです。
「爽やかで日本酒ライクなフルーティーな印象がしっかり出ていますね。この日本酒テイストとローアルコールという組み合わせは、かなりバランスが良いと思います」(谷さん)
【ペアリング:メロンと生ハム】
フルーティーさがぐっと引き立ち、イースト(酵母)のニュアンスが強く感じられます。ローアルコールで喉越し良く軽快に楽しめる点が最大の推しポイントです。
③ 醸-KAMOSHI-(One's BREWERY)
ビアスタイル:Sake Lager w/Kelp
アルコール度数:4.5%
酵母:きょうかい9号
麦芽:Pilsen、Carapils
ホップ:Saaz、Nelson Sauvin
副原料:Kelp(日高昆布)
日高昆布を使用した、これまでにない斬新なコンセプトのラガービール。
「単体だと少し掴みどころのない印象もありましたが、フードと合わせることでその個性が一気に引き立ちました」(樋代さん)
【ペアリング:鱧(ハモ)のフリット】
鱧の淡白ながら豊富なイノシン酸などの旨味が、ビールに含まれる昆布のグルタミン酸と相乗効果を発揮。魚介系のフレーバーを引き立て合い、ビールの持つ味わいの真価が分かりやすく伝わります。
④ 空知絹雪 清酒酵母 BMK3Ver.(CRAFT BEER BASE)
ビアスタイル:Sake Yeast Beer
アルコール度数:6.8%
酵母:Mie Prefecture Industrial Research Institute BMK3
麦芽:Pilsner
ホップ:Tomyski、Sorachi Ace
副原料:黄麹、白麹
黄麹と白麹をブレンドし、麦芽の20%を置き換え、カプロ酸エチル(吟醸香成分)生成の高い酵母を用いて麦芽の20%を置き換えて醸造。ドライな仕上がりの一杯です。
「糖度はほとんどないドライな仕上がりですが、お米由来の自然な甘みが残っていますね。吟醸香が乗るような設計ですが、初めて使う酵母だったので『どう仕上がるか分からない』という手探りの面白さがありました」(谷さん)
【ペアリング:ナスのフリット】
麹由来のお米のニュアンスが、天ぷらのような衣の柔らかいフレーバーと見事に調和。口の中をすっきりと洗い流す効果があり、食欲をそそる効果がありますね。
⑤ JUNION(Y.MARKET BREWING)
ビアスタイル:SAKE YEAST ALE W/Lychee
アルコール度数:6%
酵母:きょうかい9号
麦芽:Pilsen、Wheat
ホップ:Hersbrucker、Nelson Sauvin Cryo
副原料:米粉、白麹、ライチ
ライチの果実味、白ブドウのような香りを放つホップ(ネルソンソービン)、そして日本酒酵母の3要素が調和した Hazy IPA(ヘイジーIPA)ライクな仕上がりです。
「トップノートからミドルノートにかけて印象が変化するのが面白いですね。最初はライチを感じ、次にネルソンソービンのスパイシーさが現れ、最後に酵母のフルーティーさが追いかけてきます」(宮崎さん)
「通常のビールで同じようにライチを使うだけでは出せない、それぞれの素材を活かす見事な土台(ベース)になっていると感じました」(樋代さん)
【ペアリング:ナスのフリット】
「フルーティーなフレーバーが強いため、ナス本来の味というより、まるで別のフルーツを食べているかのような感覚になります。甘味が引き立ちますね」(谷さん)
⑥ NO WAR(NOM CRAFT BREWING)
ビアスタイル:West Coast IPA
アルコール度数:6%
酵母:きょうかい9号、West Coast Ale Yeast
麦芽:Pilsen、Wheat
ホップ:Oktawia、Eclipse、Citra
副原料:黄麹
アメリカンIPAの伝統的なスタイルを、あえて日本酒酵母で醸した意欲作。しっかりとした苦味とウエストコーストエール酵母らしいニュアンスを併せ持ちます。
「ホップの主張がしっかりしているので、どちらかといえばお肉とのペアリングがイメージしやすいですね」(谷さん)
【ペアリング:ミニローストビーフのブルスケッタ】
お肉の旨味と素晴らしいバランスを見せる組み合わせ。「和」と「洋」が交差する、新しい肉料理とのペアリングです。
⑦ 和ノ濁IPA(REPUBREW)
ビアスタイル:SAKE-YEAST HAZY IPA
アルコール度数:6%
酵母:協会18号 + Juice Yeast
麦芽:Pilsner、Wheat、Oats
ホップ:[WP] Ekuanot / [DH] Huell Melon、Ekuanot、Idaho7、Mosaic
副原料:Dextrose、小麦粉
大吟醸の仕込みによく使われる「協会18号酵母」を使用し、小麦粉を巧みに用いて濁りを引き出したHazy IPA。
「酢酸系の少し厚みを感じる酸味がありますね。ビール酵母ではあまり出ないニュアンスですが、だからこそ『和の酵母らしさ』がしっかり表現されていますね」(谷さん)
【ペアリング:フライドポテト】
ジューシーなホップの存在感と柔らかさが共存し、カジュアルなフードとも抜群の相性を発揮します。
麹や清酒酵母を使用したビールの可能性
これら7つのビールを体験して強く感じるのは、日本酒酵母や麹を使ったビールの質が、この2年間で圧倒的に洗練されたということです。
「日本酒酵母を使う際、よく『発酵がスタックする(途中で止まってしまう)』と言われますが、これは酵母の特性を完全に理解しきれていないために起こります。癖のある酵母なので、性質をよく理解してあげる必要があります」(宮崎さん)
それでも、ブルワリー同士がセミナーやコラボレーションを通じて知見を共有し続けた結果、今やアルコール度数を3%〜6%程度のロー〜ミドルレンジに収め、ドライでドリンカブルな設計に落とし込む技術が確立されてきました。
日本酒が持つ「アルコール度数の高さ」というハードルをクリアし、ビールのように喉越しで楽しめる「和の酒」としての新しい可能性が大きく開かれていると感じます。
「だし」ビールの可能性
今回のイベントでは昆布を用いたビールも登場しました。日本の食文化の根幹である「だし」の可能性について、造り手たちに意見を尋ねました。
「実際に魚や昆布を入れる手法もありますが、私個人としてはビールに動物性タンパク質を入れることには少し慎重でありたいと思っています」(谷さん)
「私たちはまだ挑戦していませんが、動物性素材を入れること自体はNGだとは思っていません。日本のだし文化は、脂肪分の少ない素材から出汁を抽出する文化です。そこにプラスアルファの風味をどう組み合わせていくかが鍵になると思います」(樋代さん)
日本のだし文化の本質は、余分な脂肪分のない素材から純粋な旨味を引き出すことにあります。素材へのアプローチに議論はあるものの、日本の食文化に根ざした「旨味の相乗効果」をビールに応用する試みは非常に理にかなっています。造り手の自由な発想によって、新しい食の未来を切り拓く可能性を大いに秘めていると言えるでしょう。
まとめ
「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」の軌跡は、点在していた個別の挑戦がコミュニティやイベントを通じて「面」へと広がる歴史そのものです。
「10年以上前から『日本酒を紐解く』『日本ナイズされたビールをどう造るか』を議論してきました。こうした場を通じて横のつながりができ、知見が蓄積されたことで、みんなが技術的なハードルを乗り越え、新しい味わいを生み出せるようになっています」(谷さん)
「イベントやトークセッションを技術や知識を集約する機会として活用し、業界全体でさらに理解を深めていきたいです。麹や清酒酵母を使うことが特別ではなく『当たり前』になっていくのが理想ですね。その延長線上に、新しいビアスタイルが生まれれば嬉しいです」(宮崎さん)
造り手たちが切磋琢磨して積み上げてきた知見は、確実に飲み手の食卓を豊かにし始めています。今後は大都市圏などへの発信も視野に入れながら、造り手と飲み手が一体となって「日本らしいビール文化」を育む環境が進むことで、このムーブメントがさらに力強く世界へ羽ばたいていくことを期待させてくれるイベントでした。



コメント