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点から面へ、そして文化へ 日本オリジナルのビアスタイル探る旅Vol.28

  • 執筆者の写真: こぐねえ
    こぐねえ
  • 8 時間前
  • 読了時間: 8分

全国のブルワリーの数が1,000軒とも言われる日本のクラフトビール。日々個性的でクオリティの高いビールが次々と生み出されています。


2022年から「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」を続けているCRAFT BEER BASEの谷和さんと開催しているトークセッション。第28回目となる今回は、クラフトビールのサブスクリプションサービス「Otomoni(オトモニ)」を運営するBrewtope株式会社の金澤俊昌さんをゲストにお迎えしました。 

無題のドキュメント


造り手の視点と、流通・マーケットの視点が交差したとき、今までの視点にはなかった「これからの日本のクラフトビールシーン」の新たな輪郭が見えてきました。


データと市場の声から見える「日本らしさ」の現在地


「Otomoni」をスタートして約6年。現在では全国500社以上のブルワリーとお付き合いがあるという金澤さん。当初は一般家庭向けの定期便から始まったサービスも、近年は飲食店・小売・施設向けの事業、さらには企業のイベント利用やギフトまで、クラフトビールの流通網を広げる活動へと進化を遂げています。 


そんな市場の最前線に立つ金澤さんは、「日本らしさを追求するブルワリーの割合は、確実に増えている」と語ります。その背景には、ブルワリーの急増に伴うポジショニング(差別化)の競争だけでなく、ITエンジニアや調理師など、異業界から参入してきた新しい造り手たちが台頭している点があります。彼らが持つ多様なバックグラウンドが、これまでにない独自の視点を業界に持ち込んでいるのだと言います。


では、実際に「日本らしいスタイル」として、市場ではどのような動きが起きているのでしょうか。


圧倒的なシェアを誇る「フルーツエール」の台頭


谷さんが当初イメージしていた「日本らしさ」は、清酒酵母や麹、米といった、伝統的な日本酒のテイストを取り入れたものでした。しかし、金澤さんが提示した実際の流通データは、それとは異なっていました。


「一般的な飲食店をサポートするB to Bの事業において、上位20%の商品のうち、実に30%強を『フルーツエール』が占めているんです」。


この数字は、クラフトビール専門店やビアフェスに集まる「ビール好き」だけのデータではなく、イタリアンや和食店などで、一般のお客さまが何気なく注文する「エントリー層」のリアルな消費行動を反映しています。


金澤さんは、フルーツエールがこれほどまでに支持される理由を「味覚をイメージできる媒体だから」だと分析します。いくら「ホップのアロマがフルーティ」と説明されても、馴染みのない人には味が想像できません。しかし、「ストロベリー」や「みかん」といった果物の名前があれば、誰でも瞬時に味を想起し、安心して手を伸ばすことができます。


そしてこれこそが、非常に日本らしいアプローチだと金澤さんは言います。日本には美しい「四季」があり、季節ごとに旬を迎えるフルーツの消費文化がすでに土壌として深く根付いています。地域の農家とのつながりから、自然発生的にフルーツビールが多く作られる環境もあり、この「季節感をフルーツを通じて楽しむ」という情緒こそが、日本ならではの強みになっていると語ります。


金澤氏が考える「日本オリジナル」。探すのではなく「確立させる」


対談の中で、金澤さんは非常に象徴的な言葉を口にしていました。


「日本オリジナル自体は、もうすでにたくさん存在している。どっちかっていうと、探すというよりも『確立させる』感覚が強いです」


すでに市場には、「フルーツをふんだんに使ったもの」「米や伝統的な食材を使った食中酒タイプのもの」「清酒酵母や麹、米に特化した日本酒インスパイア系」といったいくつかのスタイルが、点としていくつも存在していると言います。


しかし、それらがまだ「点」のままであり、世の中に広く認知された「面」になっていないのが現状です。そこで、金澤さんがひとつの例として挙げたのが、日本のラーメン文化における「家系ラーメン」の存在でした。


「家系ラーメン」に学ぶ、スタイル確立の方程式


家系ラーメンは、今では博多ラーメンや札幌味噌ラーメンと並ぶ一つの巨大なスタイルとして確立されています。それは、横浜という地域周辺で多くの店舗がその味を継承し、さらに「海苔が垂直に刺さっているビジュアル」や「ライスを一緒に頼んでスープをぶっかける」といった、独自の「視覚的特徴」と「消費体験(食べ方)」をセットで定着させたからだと金澤さんは話します。


これをクラフトビールに置き換えてみると、大きなヒントが見えてきます。世界中で大人気のHazy IPAも、濁りのある圧倒的な「見た目のインパクト」があったからこそ、一気に認知が広がりました。


金澤さんは、この逆張りとして「あえて日本由来の原料を使わずに、日本のスタイルは作れないだろうか」という面白い空想を披露します。


ビールにおいて「テロワール(土地の気候風土や原材料の特性)」を重視する文化は根強くありますが、日本は麦芽やホップの多くを輸入に頼らざるを得ない現実があります。しかし金澤さんは、「決してネガティブなことではないと思うのです。大阪の名物である『たこ焼き』が良い例だと思います」と考えを示します。


たこ焼きの小麦粉も、主役であるたこも、実はその多くが輸入原料です。それでも、たこ焼きは間違いなく大阪・日本の文化として愛されています。それは、外来のものを日本独自のローカライズや編集を経て、その土地の「消費体験」として根付かせたからに他なりません。


原材料という制約に縛られることなく、もっと自由な発想で、「日本らしい色彩」、あるいは「日本らしい飲み方・シーン」とセットで設計された商品を生み出していくこと。それこそが、次のステップである「スタイルの確立」へと繋がっていくはずです。


製造の文脈から原材料に捉われがちだった私たちにとって、この「消費体験から逆算する」という金澤さんの指摘は、これまでのゲストから出てこなかった非常に新鮮な視点でした。


今後の日本のクラフトビールシーンの発展に向けて


対談の終盤では、日本のクラフトビールシーンをより豊かに、そして持続可能に発展させていくためには何が必要なのか、未来へ向けた3つのアクションが見えてきました。


① 製造(造り手)と流通(プラットフォーム)の強固な一体化


どれほど素晴らしい限定ビールを偶発的に造ったとしても、それが消費文化として定着するまでには時間がかかります。造り手の「表現したい想い」だけで突っ走るのではなく、流通側が持つ「市場のリアルなデータや消費者の声」をフィードバックし、一体となってやりきることが不可欠です。


金澤さんが持つ定量的なデータや定性的な声と、谷さんをはじめとするブルワーたちの高い技術力が密にリンクすることで、「消費者置いてけぼり」ではない、真に市場に受け入れられる日本オリジナルスタイルが育っていくのです。


② 「共通言語(横軸)」と「品質評価(縦軸)」の整備


金澤さんは、ビアスタイルの役割には「共通言語としての横軸」と、「品質向上(コンペティション等)のための縦軸」の2つがあると指摘します。


「現在の日本は、すでにブルワーたちが高い品質のビールを造っており、これからは『みんながこれを造り、みんながこれを頼む』という横軸(認知と流行)を広げるフェーズにあります」と言います。横軸が広がることで、初めてそれを正しく評価する縦軸のルールが整備され、最終的に世界へ誇れる『ビアスタイル』として公認されていくと金澤さんは考えています。


③ 「日本の飲酒シーン」の文化形成


「ビールの味そのものだけでなく、『どんなシーンで飲むか』という文化の深掘りが必要です」と金澤さんは語ります。


ベルギーの修道院、ドイツのビアホール、アメリカのホップカルチャーのように、日本にも独自の飲むシーンが存在します。たとえば、「屋外での飲酒やイベント、アウトドアといった『外飲み』の自由さ」「四季の劇的な温度変化に合わせた味わいの変化」「居酒屋に代表される、お酒単体ではなく『食中酒』としてご飯と一緒に楽しむ文化」などが挙げられます。


そこにバレンタインのチョコレートや、コンビニから仕掛けられた恵方巻きのように、誰もがワクワクするような「消費の渦」を業界全体で巻き起こしていくこと。シーンそのものをデザインしていくことで、日本オリジナルのビアスタイルが真に確立される期待が高まります。


30年の歴史を超えて、次の未来をみんなで創る


日本のクラフトビールの歴史が始まって約30年。この10年だけでも、ビールカルチャーは急激に変化し、人々の生活に確実に溶け込みつつあります。


「クラフトビールは、何をやっても基本的には自由な、とても懐の深いお酒です」と語る谷さん。


だからこそ、私たちは「日本オリジナルとは何か」という型に、自らを苦しく縛り付ける必要はないのだと、ハッと気付かされる時間になりました。


輸入原材料を自由に使いこなし、日本ならではの「旬」や「色彩」を愛で、独自の「食卓」や「外飲みシーン」に寄り添わせていく。そんな風に、造り手も、流通も、そしてお酒を楽しむ消費者も、みんなをぐるっと巻き込んだ幸せな循環の先に、未来の日本のビール文化が鮮やかに花開いているはずです。


「探す旅」から「確立させる旅」へ。日本のクラフトビールシーンの新しい1ページは、もうすでに始まっています。

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