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日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Vol.27 YELLOW MONKEY BREWING 齋藤健吾さん

  • 執筆者の写真: こぐねえ
    こぐねえ
  • 13 分前
  • 読了時間: 6分

CRAFT BEER BASEの谷和さんと共に、「日本らしいビアスタイルとは何か?」を語り合うディスカッションイベント「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。第27回目となる今回は、神奈川県で新たな挑戦を続けるYELLOW MONKEY BREWINGの齋藤健吾さんをゲストに迎え、その深い思考の跡を辿ります。 


清酒酵母へと舵を切った、その真意


齋藤さんは、熊澤酒造(湘南ビール)やハーヴェスト・ムーン、NUMBER NINE BREWERY、そしてニュージーランドでの経験と、華々しいキャリアを積み重ねてきた実力派ブルワーです。 


前職ではニュージーランド産ホップの魅力を最大限に引き出すビール造りに邁進してきましたが、自身の新天地YELLOW MONKEY BREWINGでは、ホップへのこだわりはそのままに、新たに「清酒酵母」という素材を相棒に選びました。 


谷さんが今回注目したのは、「なぜ今、あえてビールに清酒酵母を合わせるのか?」という、齋藤さんの根源的な問いについてでした。 


齋藤さんは、その理由を静かに、しかし力強く3つの視点から語ってくれました。 


「一つは、海外で研鑽を積む中で、日本の文化や和食といった『足元の美しさ』に改めて気づかされたこと。二つ目は、ホップのみで表現できる世界に一つの限界を感じ、酵母という新たな可能性に惹かれたこと。そして最後は、醸造所が増え、多様化が進む日本において、自分にしか成し得ないオリジナリティを追求したくなったからです」 


また、小豆島の「ヤマロク醤油」を訪れた際のエピソードも印象的でした。国内でのシェア争いではなく、世界に通用するブランドを目指すという醤油造りの哲学に触れ、「日本のクラフトビールも、こうあるべきだ」と確信したと言います。 


流行を追うだけでなく、世界に「これこそが日本のビールだ」と胸を張って提示できるもの。その探求の末にたどり着いたのが、清酒酵母という選択肢だったのです。 


麹とビールが溶け合う、未知の味わい


話題は、清酒酵母から「麹」の使用方法、そしてそれが味わいにどのような魔法をかけるのかという、より技術的な議論へと深まっていきました。 


「日本ならではのスタイルを体現するのは、和食の根幹にある『出汁』のような、奥行きのある旨みだと思っています」と齋藤さん。この言葉に谷さんも深く頷きます。「日本には食事と共に酒を愛でる豊かな文化があります。だからこそ、和食との調和は欠かせません」と、谷さんも麹を扱う際は常にペアリングを意識していると言います。 


齋藤さんからの「麹を使うことで、具体的に何が変わるのでしょうか?」という問いに対し、谷さんはこう答えます。 


「CRAFT BEER BASEでは米麹を主軸に据えています。麦を主役とするビールには、例えるなら和食とパンを一緒に合わせるようなもの。ここに米麹を使用すると米の風味が加わることで、和食との距離がぐっと縮まるのです」。齋藤さんはそれを聞き、「アミノ酸による旨みが、味わいの下支えとなり、ボディ感を豊かにしてくれる感覚ですね」と、自身の感覚を確かめるように言葉を重ねていました。 


さらに、谷さんは「和食とのペアリングには、私たちのDNAに刻まれた感覚的な何かが作用している気がします」と、麹が持つ不思議な魅力を語りました。 


未だ正解のない、麹を使ったビール造り。お二人は今、まさにその開拓者として試行錯誤の渦中にいます。ディスカッションでは、醸造工程における具体的な工夫についても意見が交わされました。 


「表現したい味によって、麹を入れるタイミングは変わります。発酵や貯酒の段階で使うなら、量は控えめにするのが良いでしょう」という谷さんのアドバイスに、齋藤さんからは「麹はカビの一種。タンクへの投入は汚染のリスクを伴いませんか?」という、プロフェッショナルならではの鋭い質問が飛びました。それに対し、谷さんも「実際にはまだその段階では実践していません。やはり、品質を維持する難しさは常に隣り合わせですね」と答え、理想の味と品質管理の狭間で戦うブルワーのリアルな苦悩が垣間見えました。 


現在は、麦汁を造る工程(ホットサイド)で3パターンの投入方法を使い分けているという谷さん。一つひとつの工程を検証しながら、最適解を探る旅は続いています。 


「驚きと感動」を、もう一度


議論の熱は、技術論から「日本らしいオリジナリティ」のあり方へと移っていきました。 


齋藤さんは、麹や味噌、醤油といった伝統的な原料は、日本人が最も深く理解し、使いこなせるはずだと説きます。「多くのブルワリーが麹に挑戦することで、日本のクラフトビールシーンはもっと面白くなる。そのためには、技術や知見を惜しみなく発信し、対話を重ねることが不可欠です」と、業界全体を見据えた展望を語りました。 


谷さんも「世界中で醸造技術が平準化され、誰でも美味しいビールが造れるようになった今だからこそ、『自分たちにしか造れないもの』の価値が高まっています」と、オリジナリティの重要性を強調します。 


お二人の言葉から伝わってきたのは、日本の食文化という独自の土壌を掘り下げることこそが、結果として世界の舞台で日本のビールの価値を高める近道になる、という確かな予感でした。 


さらに、齋藤さんは現在のビールシーンに対する危機感も口にします。 


「全体のレベルが上がり、美味しくないビールに出会うことは減りました。しかし同時に、魂を揺さぶられるような強烈な感動に出会う機会も少なくなったと感じています」 


全国に1000社近い醸造所がひしめき、平均点が上がったからこそ、かつてクラフトビールを初めて飲んだ時に感じた「あの高揚感」をもう一度届けたい。ホップの力や流行のスタイルに頼るのではなく、日本独自の素材で世界を驚かせたい。その情熱の象徴が、かつて日本酒界のトレンドをひっくり返した名酒『十四代』のような存在なのだと言います。 


ビールでも同じような革命を起こしたい。そんな決意を胸に、齋藤さんは清酒酵母と麹という新たな可能性に挑み続けています。 


ジャパニーズスタイルの確立には?


対談の締めくくりとして語られたのは、「ジャパニーズスタイル」を世界に根付かせるためのロードマップでした。 


「世界で評価されるためには、海外の人たちがその味を認識できなければなりません。日本人だけにしか分からない味では、ムーブメントにはなり得ないのです」と齋藤さん。ビアスタイルの確立は一人では成し得ず、多くのブルワーが関心を持ち、造り続けることで初めて形になると訴えます。 


世界的な品評会で審査員を務める谷さんも、「アメリカのビアスタイルガイドラインに『ライスラガー』が加わったのは、多くのアメリカのブルワーがそれを造り、広めたからです」と、普及の重要性を指摘しました。 


何がきっかけで、多くのブルワーの探求心をくすぐるのか。それは時代と共に変化するものかもしれませんが、絶え間ない発信と共感の連鎖が、その扉を開く鍵になるのでしょう。 


おわりに


齋藤さんの清酒酵母への情熱から始まった今回のディスカッション。改めて感じたのは、「ジャパニーズスタイル」の確立には、造り手側の探求はもちろんのこと、それを世界がどう認識するかという客観的な視点が欠かせないという点でした。 


日本人が誇らしく思い、かつ世界の人々がその個性に驚く。そんな未来を目指すためには、国内での継続的な挑戦と、多様なアプローチを肯定し合う空気が必要なのだと、深く再確認できた貴重な時間となりました。



今回は「ビールに恋するRadio」初のビデオPodcastです! ディスカッションの表情もお楽しみください。


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