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日本オリジナルビアスタイルの探る旅 SPRING VALLEY BREWERY TOKYO「寿司×クラフトビールフェス」

  • 執筆者の写真: こぐねえ
    こぐねえ
  • 7月7日
  • 読了時間: 6分

2025年6月21日~22日の2日間、SPRING VALLEY BREWERY TOKYOにて、「寿司×クラフトビールフェス」を8年ぶりに開催。会場では寿司に合う20種類のビールが提供され、訪れた人々を楽しませました。


今回は、イベントの終了間近にキリンビールマスターブリュワーの田山智広さんをゲストに迎えて収録を行った「日本オリジナルビアスタイルの探る旅 SPRING VALLEY BREWERY TOKYO『寿司×クラフトビールフェス』」をまとめた内容をお伝えします。


印象的だったビールの進化


「寿司×クラフトビールフェス」で、田山さん、進行役を務めるCRAFT BEER BASEの谷和さんが、共通して印象的だったと話したのは「ビールの進化」です。


「当初、寿司に合うビールは手探りで選ばれていましたが、現在では寿司とのペアリングを戦略的に考えて造られるビールが増えています」と田山さん。イベントが始まった2016年頃は、「このビアスタイルに合う寿司は何か?」という形でペアリングの提案をしていたのを記憶しています。しかし、今回は、既存のビアスタイルだけではなく、フルーツや日本ならではの素材である麹や杉を使用したビールが多く提供されていました。特に麹を使用したビールは、20種類中5種類あり、ビールの幅が広がっていることを感じました。


麹を使用したビールについて田山さんは、「麹は科学的にもペアリングに適しているとされ、醸造家は黄麹や白麹など様々な麹を組み合わせて、味覚設計を行っています」といい、谷さんも寿司に合わせるビールとして麹を使用した「空知絹雪」を醸造しています(今回のイベントでも提供)。


また、日本酒の「枡酒」に影響を受けた、杉やヒノキなど日本の木を使ったビールも登場。SPRING VALLEY BREWERY TOKYOは、Teenage Brewingとのコラボビールで、杉を使ったラガーを造り、「寿司ネタや醤油・塩だれによって味わいが変わる点が注目されました」と田山さん。


創造性に富んで個性が突出しているだけではなく、個性を出しながらバランスが取れていて食事とともに味わえるビールが揃っていたことは興味深かったです。


キリンビール マスターブリュワー田山智広さん。今回のイベントでは寿司に合うビールを探すために、様々なビールを試して考えたと言います。
キリンビール マスターブリュワー田山智広さん。今回のイベントでは寿司に合うビールを探すために、様々なビールを試して考えたと言います。

フードペアリングの哲学と方法論


会場では、SPRING VALLEY BREWERYが提案する3つのフードペアリングガイドが紹介されていて、ペアリング体験が少ない人でも楽しめる配慮がされていたのが印象的でした。


ペアリングガイドでは、3つに分類して紹介。1つ目は、似た色同士のペアリング。これは白ワインと白身魚のように、ビールの色と料理の色を合わせる方法です。ゴールデンカラーの淡色系ビールの場合、イカやタコを合わせる。濃色系ビールでは、マグロやサーモンを合わせるといった感じです。濃色系ビールの場合、よく煮込み料理が勧められますが、これは色がつく過程(メイラード反応やロースト)で共通の味の要素が生まれるため、相性が良くなるという理屈に基づいています。


2つ目は、似た風味同士のペアリング。これは 風味や連想に基づいたペアリングです。例えば、イカやエビには、柚子などの柑橘系のビール。山椒を使ったビールには、鰻や山椒入りのマグロの漬けなど、山椒系の風味を持つ料理を合わせるというものです。また、生姜を使ったビールは、ガリのように機能して、口の中で味わいを高めてくれます。


3つ目が、意外な組み合わせの発見。これは、理屈では説明できないものの、驚くほど相性の良い組み合わせというもの。例えば、SPRING VALLEY BREWERYの「JAZZBERRY」とガリ、または黒ビールとブルーチーズが当てはまるといいます。


田山さんはペアリングについて、「冒険であり、固定観念にとらわれずに試すことで、新たな発見が生まれる楽しさがあります」と魅力を話します。


「ビールは、ワインや日本酒に比べるとバリエーションが非常に豊富です。多様な原料やスパイスやハーブを使えるため、食事との組み合わせの可能性が無限大に広がります」と田山さんが話せば、谷さんは「ビールはアルコール度数が比較的低いため、気軽に何杯も飲んで様々なペアリングを試すことができるのも魅力です」と、ビールがペアリングをしやすいお酒であると話していました。


CRAFT BEER BASEの谷和さん。和食とのペアリングを追求していて、自社でも和を意識したビールを醸造している。
CRAFT BEER BASEの谷和さん。和食とのペアリングを追求していて、自社でも和を意識したビールを醸造している。

日本におけるビールと食文化の歴史的背景


日本でビールが食事と共に楽しまれるようになった文化の歴史についても話しが触れられました。


明確な時期は分かりませんが、1950年代後半から普及し始めた家庭用冷蔵庫とともにビールも普及していきます。「当初は贅沢品で、外食時に飲むものでした」と田山さん。その後、家庭でもビールが飲まれるようになり、低アルコールで飲み続けやすいビールは、食事を邪魔することなく、共に美味しく楽しめるものとして普及していきます。


この「食事を邪魔しない」という考えは、日本人の繊細な味覚に合うようなビールの開発へとつながっていきます。キリンビールでは、1990年発売の「キリン一番搾り生ビール」が、「日本人の繊細な味覚に合うビール」というコンセプトで設計され、苦味や香りのバランスが和食に合うように調整されました。この開発は、「日本の食文化が豊かになった時代と重なります」と田山さんは話します。


「日本人の繊細な味覚に合うビール」が発展していった理由について、田山さんと谷さんは、白身魚の種類を細かく食べ分けるなど、素材の微細な違いを味わう文化が大きいといいます。ビール醸造においてもミリ単位の精度にこだわる職人気質(例:ビールのラベル貼り付け)と、海外の文化を日本流に「カスタマイズ」する能力(例:カレーライスやオムライス)が高く、このような姿勢が日本のクラフトビールのレベル向上に貢献していると2人は話していました。

久しぶりの開催となった「寿司×クラフトビールフェス」。会場は多くの人で賑わっていました。
久しぶりの開催となった「寿司×クラフトビールフェス」。会場は多くの人で賑わっていました。

今後への期待は?


大きな収穫があったことを感じさせた今回のイベント。今後も日本ならではの食材や地域の食文化に焦点を当てて徹底的に追求することで、田山さんも谷さんも日本独自の新しいビアスタイルが確立してくると信じているようでした。


また、ペアリングについても醸造家と料理人の相互理解が重要であることが実感できたといいます。今回のイベントを例にとると、寿司職人がビールに合わせて寿司の味付け(醤油の量、塩の種類、ごま油の使用など)をカスタマイズして、「ビールに合う寿司を提供する」という今までとは反対の流れを示していました。このような双方向の取り組みが、食文化全体のレベルを高めて、無限の可能性を生み出していくはずです。


参加者からも好評だったことから、「寿司×クラフトビールフェス」を引き続き開催していきたい意向を示していた田山さん。このイベントは、日本ならではのクラフトビール文化を発展させるきっかけの1つになり得ると思います。さらに、地域ごとの食事とビールを楽しむイベントが増えていくことで、日本の食文化はさらに奥深く、楽しいものへと進化していくでしょう。

田山さん、お忙しい中ありがとうございました。
田山さん、お忙しい中ありがとうございました。

★前回、田山さんが出演した配信はこちらから聴けます


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