北海道の大地と職人魂が紡ぐ、日常に寄り添う極上の一杯
- こぐねえ

- 13 時間前
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北海道江別市に拠点を置く「NORTH ISLAND BEER(ノースアイランドビール)」。広大な大自然と豊かな食文化を誇る北海道において、日本のクラフトビールシーンを語る上で欠かすことのできないパイオニア的なブルワリーです。
彼らが追求するのは、単なる奇をてらった話題性ではなく、飲み手の日常に寄り添い、食の時間を豊かに彩る「圧倒的なクオリティと飲みやすさ」。その歩みを紐解くと、波乱万丈な日本のクラフトビール史と深く重なり合ってきます。
体験醸造から始まった希少なブルワリー
「NORTH ISLAND BEER」の運営会社であるSOCブルーイング株式会社(設立当初は有限会社カナディアンブルワリー)が起業したのは2002年のこと。翌2003年1月に醸造免許を取得し、札幌市東区にて「体験工房 手づくり麦酒」という名称で醸造をスタートしました。
当時は、1990年代後半の「第1次地ビールブーム」が沈静化し、業界全体が激しい淘汰の波に翻弄されていた時期です。ピーク時に約33社あった北海道内のブルワリーは10数社にまで激減。まさに“冬の時代”とも言える厳しい環境での立ち上げに、周囲の友人や親族からは「なぜ今、地ビールなのか?」と心配する声が相次いだと、取締役工場長の多賀谷壮(たがや たけし)さんは振り返ります。
そんな逆風の中で彼らが導入したのが、カナダから取り寄せた体験型醸造システム「BOP(Brewers On Premises)」でした。1釜あたり約50Lという小型醸造設備を並べ、一般の利用者が自分だけのオリジナルビールを造れるという、当時としては画期的な試みです。しかし、日本の酒税制度や飲酒文化の壁もあり、「体験醸造だけでは事業の大きな柱になりにくかった」と多賀谷さんは語ります。
そこで2009年春、クラフトビールメーカーとしての製造・販売体制を強固にするため、現在の江別市へ拡張移転を決意。「北の島(北海道)」から全国へ高品質なクラフトビールを発信していくという強い想いを込め、ブランド名を「NORTH ISLAND BEER」へと刷新しました。
現在、定番ビールとして展開するのは厳選された5種類。地元・江別産の小麦を使用したフルーティーな「ヴァイツェン」、すっきりとしたキレと素材の旨味が際立つ「ピルスナー」、香ばしい麦芽の風味が心地よい「ブラウンエール」、力強いホップの香りと苦みが押し寄せる「IPA」、そしてスパイスのコリアンダーシードを使用し、黒ビールの深みと爽やかな余韻を融合させた「コリアンダーブラック」です。
これに加え、2ヶ月ごとにリリースされる年間6種類の季節限定ビールがファンを魅了してやみません。スタイルにとらわれず「自分たちが今心から飲みたいビール」を追求する姿勢にこそ、彼らの真骨頂が宿っています。
さらに2026年春からは、従来の瓶に加えて缶ビールの展開もスタート。より身近な存在として、全国の食卓へその味を届けています。
あくなき探求心から造り出される高品質なビール
多賀谷さんが現場で品質を支え続けて20年以上。しかし意外にも、最初からブルワーを目指していたわけではありませんでした。
大学時代の多賀谷さんは、大手メーカーのピルスナーやラガーを好むごく普通のビール好きでした。転機は2000年代初頭、小規模醸造設備を買い付けて国内の新規開業事業者を支援するベンチャー商社に勤務していた頃です。技術研修のために訪れたカナダ・ブリティッシュコロンビア州での体験が彼の人生を大きく変えました。
ヨーロッパの伝統製法を受け継ぎつつ、北米ならではの自由な発想で造られる多種多様なクラフトビール。「ビールという飲み物は、こんなにも幅広く奥深いのか」。現地で日々醸造を学ぶなかで目から鱗が落ち、その魅力に深く引き込まれていきました。
そんな多賀谷さんに運命の出会いが訪れます。脱サラして北海道で起業を目指していた現在の社長らが、その商社を訪れたのです。当初は「設備を提供する側と顧客」という関係でしたが、経営に専念したい社長側から「技術面を専門的に支えてほしい」と打診を受け、2002年、4人の創業メンバーの一人として立ち上げに参画しました。
「最初の頃は手探りでしたが、醸造の世界は常に進化しています。世界的なトレンド、製法、ホップの新品種、そして醸造設備。かつてはできなかったことが具現化できるようになると『あれを試そう、これを挑戦しよう』という欲求は尽きません」
そう語る多賀谷さんに、ビール造りのいちばんの面白さを尋ねてみました。
「派手なスタイルよりも、地味なスタイルをいかに精度高く、綺麗に造るか。その難しい課題をクリアできた瞬間に、最高の喜びを感じますね」
純粋な造り手としての探究心と、ブレのない丁寧な職人技。それこそが、「NORTH ISLAND BEER」が変わらぬ高品質を誇る最大の理由です。
地元とのつながりを強める北海道のクラフトビールシーン
現在、日本全国に1,000箇所を超えるブルワリーが存在し、北海道内だけでも50社以上がしのぎを削っています。「NORTH ISLAND BEER」は北海道のパイオニアとして業界を引っ張る存在ですが、多賀谷さんは現在の北海道のクラフトビールシーンをどのように見つめているのでしょうか。
「北海道は非常に広大です。大都市圏のように各駅にブリューパブがあるような環境とは異なります。ですが、各地域の中規模な市町村にブルワリーがあり、地元の人たちが『おらが町のビール』として日常的に飲みに行く。そんな地域密着のスタイルが増えていくことこそが理想ですね」
江別市もまた、小麦の名産地であり、大学や道立の食品加工研究センターが集積する産学官連携の可能性を秘めた街です。「江別産の小麦や地元産のホップを使うなど、地域産物と結びついたビール造りを大切にしています。北海道は寒冷なため果物の種類が限られる側面もありますが、最近開業した若いブルワリーたちが地元の産物と強く結びつき、地域に根差したビール造りを行っているのは本当に素晴らしいことだと思います」
国際交流イベント「Fuji to Hood」が得た新たな刺激
インタビューの直前、「NORTH ISLAND BEER」はアメリカ・オレゴン州と日本のブルワリーがコラボレーションする日米交流イベント「Fuji to Hood(フジ・トゥ・フッド)」に参加していました。
今回ペアを組んだのは、オレゴン州の農場の中に醸造所を構える「Wolves & People(ウルヴズ&ピープル)」。北海道の特産果実「ハスカップ」を使用したブリュットIPAの仕込みについて、多賀谷さんは舞台裏の苦労を明かしてくれました。
「実は当初、ブリュットIPAではなくグリセットというスタイルをベースにする予定だったんです。しかし、先方とのスケジュール調整の中で急遽変更することになりました」
さらに、希少なハスカップは生のままでは検疫の関係で輸出が難しいという壁にも直面。国境を越えたメールでの協議を重ねた末、1980年代に北海道からカナダへ渡り栽培されている「カナダ産ハスカップ」を現地で調達して醸造するというアイデアに辿り着きました。こうして四苦八苦の末に完成したビールは、「現地のクラフトビールファンからも絶賛され、見事な成功を収めました」と笑みを浮かべます。
国境を越えた技術と情熱の交歓は、「NORTH ISLAND BEER」に大きな刺激を与えました。また、多賀谷さんは現地のパブカルチャーにも強く惹かれたと言います。
「人々が普段使いの感覚でパブに集まり、3世代の家族連れが食事と一緒にビールを楽しんでいる光景がすごく印象的でした。日本で言えば、家族で日常的に居酒屋へ行くような感覚ですね」
人々の暮らしの中にビールがごく自然に溶け込んでいる風景。そこには、日本のクラフトビールシーンが目指すべき未来のヒントが隠されているのかもしれません。
地域に愛され、未来へ紡ぐ「NORTH ISLAND BEER」の挑戦
第1次地ビールブームの衰退期に産声を上げ、江別への移転、ラインナップの充実、缶ビールへの挑戦と、絶えず歩みを進めてきた「NORTH ISLAND BEER」。彼らが思い描く未来の姿とはどのようなものでしょうか。
「目標は、これからも変わらず『北海道を代表するブルワリー』であり続けることです。新しく立ち上がる若手ブルワリーのためにも、そして北海道のビールファンのためにも、私たちが北海道の顔として走り続けたいと思っています」
そして、その大きな目標の根底には、創業時からブレない地道な思いが息づいています。
「ふらっとラーメン屋さんに行くような感覚で『今日はNORTH ISLAND BEERにしようか』と選んでもらいたい」
オレゴン州で目にしたあの豊かな風景のように、地域の人々の日常に深く寄り添う存在になることこそが、彼らの目指す姿です。
最後に、多賀谷さんからビールファンへメッセージをいただきました。
「クラフトビールには本当に多様なスタイルがあります。ぜひ色々な味に挑戦してみてください。そして何より『食』そのものを楽しみ、探究心を持ってほしいですね。食という大きな楽しみの中でクラフトビールを味わっていただければ、その一杯の美味しさは何倍にも広がるはずです」
グラスに注がれた美しい琥珀色の液体。そこには、北海道の豊かな恵みと職人の揺るぎないこだわり、そして人々の日常を少しだけ特別なものにしたいという温かな情熱が満ちています。「NORTH ISLAND BEER」はこれからも江別の地から、私たちの毎日に寄り添う至福の一杯を届けてくれます。



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