ビールのその先へ 「秩父麦酒」が所沢に描く、新たな物語の始まり
- こぐねえ

- 21 時間前
- 読了時間: 8分
クラフトビールを愛する人なら、一度は「秩父麦酒」のチャーミングな白クマのラベルを目にしたことがあるのではないでしょうか。
秩父の豊かな自然の中で育まれ、自由な発想と遊び心で数々の個性的なビールを生み出してきた彼らが、今、新たな挑戦を埼玉県所沢市にある「ところざわサクラタウン」ではじめました。
ここにオープンした「CRAFT BEER STAND ゆい」は、単なるビールの提供場所ではなく、造り手と飲み手が交流し、全く新しい「ビール体験」を創り出すための実験場であり、舞台を目指した場所です。
秩父という原点から離れ、なぜ彼らはこの場所で新たな旗を揚げ、一体どんな未来を見据えているのでしょうか。秩父麦酒代表社員である丹広大(たん こうだい)さんにお話を聞きました。
「CRAFT BEER STAND ゆい」が提示する、新しい場所の在り方
新店舗は、構想からオープンまで1年以上の時間をかけて準備されました。しかし、その過程は決して順風満帆なテナント入居ではありませんでした。彼らが最も慎重に検討したのは、「秩父で育んできたビールが造りづらくなる」環境ではないかということ。「どのような形態で運営をしていくのか」「施設側の管理体制と調和するのか」など、決断に至るまでに半年以上の時間を要したと言います。
施設管理という枠組みの中で、排水基準や薬剤の管理といった厳格なルールを守りつつ、ブルワリーとしての個性をいかに守り抜くのか。その決断への思いを話す丹さんの表情からは、「秩父と所沢の複数拠点で歩んでいく」強い覚悟が滲んでいました。
悩みに悩んだ「CRAFT BEER STAND ゆい」のコンセプトは、「無機質な空間」です。これは、ビールを飲むだけの場所ではなく、音楽、アート、漫才、落語など、ジャンルを問わず様々な表現が持ち込まれることを想定しているからです。「主張したいものを主張できる場所」。丹さんが目指すのは、ビールが主役の空間ではなく、人が主役となり、ビールがその背中を後押しする場所です。秩父麦酒が持つ自由さを最大限に活かし、外からのアイデアを積極的に受け入れて化学変化を起こしていく。それが、「CRAFT BEER STAND ゆい」がこの地で始めた新しい試みです。

秩父麦酒の現在地 100年残るものを目指して
秩父麦酒のビールづくりへの思いに「100年後に残せるビールを造ること」があります。9年前の醸造スタート以来、彼らはひたむきにビールと向き合ってきました。その中で、ただビールを造って売るという枠を超えて、地域に浸透し、人々を巻き込んでいく形が明確に見えてきたと丹さんは語ります。
現在は、限界集落の廃校を利用したプロジェクトなど、地域に根差した動きもあります。ビールをただの商材としてではなく、文化として、物語として残していこうとする姿勢。これこそが、秩父麦酒が多くのファンを魅了し続ける理由であり、同時にKADOKAWAのような大きなメディア企業と手を組んだ大きな動機でもあります。
「出版やコンテンツづくりと、クラフトビールというものづくりは、方向性としてはかなり近いものがある」と丹さん。
ビールを単なる商品としてではなく、KADOKAWAとのコラボレーションを通じた「可能性の広がり」に大きな価値を感じています。秩父麦酒にとって、ビールは人生を豊かにするクリエイティブな表現そのものなのです。
「埼玉・武蔵野ビールフェス in サクラタウン」にみる、巻き込み型のエンターテインメント
「CRAFT BEER STAND ゆい」を通じて目指す未来は、非常に刺激的です。その具体例として挙げられるのが、「埼玉・武蔵野ビールフェス in サクラタウン」です。
従来のビールイベントのように、決まったブルワリーがビールを売るだけのイベントではなく、来場者のアンケートから出店ブルワリーがオープンな場でレシピのディスカッションを行い、実際に醸造して次の開催で完成したビールで乾杯する。この一連のプロセスそのものをエンターテインメントとしてお客さんと共有していきたいと丹さんは語ります。
特に驚いたのは、「イベント期間中にここで実際に醸造を行い、その様子をカウンター越しに公開しようと考えています。自分の意見が取り入れられたビールや、醸造風景を見届けたビールって、やっぱり飲んでみたいじゃないですか」と、国内でも例を見ない体験型のビールイベントを構想していることです。
さらに丹さんは、「ところざわサクラタウン」内にある1000人階段での大規模なバーベキューパーティーなど、クラフトビールファンをわくわくさせるアイデアを次々と話してくれました。
様々なイベントを通じて、知っている人達だけで楽しむ乾杯ではなく、カウンター越しに隣り合った人や、偶然後ろを通った人とも縁がつながっていくような、クラフトビールならではのコミュニティの形を築いていく。この場所には、人が集まり、縁が生まれ、新しい何かが生まれるための「接続点」になってほしいという思いが込められています。

醸造の未来と、プロデューサーとしての挑戦
今、秩父麦酒は新たなフェーズに入っています。創業メンバーが新たな道へ進むという転機を経て、「みんなでやろう」という思いが強まっていると言います。現在は、醸造マニュアルの映像化や、誰でも醸造に挑戦できる環境づくりを進めています。
また、この店舗では、狭いスペースという制約を逆手に取った「モバイルタンク」という移動可能な醸造設備の導入を検討しています。最大12〜15基のタンクを配置して、熟成中のタンクを冷蔵庫に移動して貯酒することで冷媒エネルギーを削減したり、店舗スペースに移動させて樽詰めを行ったりする計画です。さらには、醸造の現場をガラス越しに公開することで、「誰でも参加できるようなオープンなブルワリーを目指したい」と言い、変化を恐れず、常に新しい可能性を模索する姿勢は秩父麦酒らしいと感じました。
「ビールを造るだけではなく、ビールの『流れ』や『前提』をブランディングし、地域の人々から『東所沢の外に出る理由がなくなった』と言われるような場所を目指したい」
丹さんが語る言葉を聞いていると、彼が単なるブルワーから、プロデューサーとしての才能を大きく開花させている印象を受けました。

「ゆい」が紡ぐ、地域とビールの新しい関係性
所沢という秩父とは異なる商圏において、彼らが一貫して掲げているのが「参加型」のビール文化です。これまで単なる「消費物」であったビールを、「体験の共有」へと昇華させる試みは、「地域に住む人々の生活リズムさえも変える力を持っている」と丹さんは力強く言います。
例えば、毎週末のようにイベントを開催することで、「ここに来れば何かがある」という期待感を醸成すれば、ビールを飲む際の感動は何倍にも膨れ上がるはずです。これは、単なる流行りのマーケティング手法ではありません。丹さんがヨーロッパやアメリカのブルワリーを訪れた際に受けた体験からきています。「彼らは自分たちよりもビールの歴史や詳細を知っていて、その面白みを何よりも重視していました」。その情熱こそが、今の秩父麦酒の根底にあります。彼らは知識をひけらかすのではなく、誰もがその「面白さ」に触れられる開かれた場所をつくろうとしているのです。

ビールがつなぐ「沼」のその先へ
秩父麦酒が所沢に持ち込みたいのは、多種多様なビールではありません。ワクワクするような未来への設計図です。
「クラフトビールは、まだまだ楽しめる」。そう確信させてくれる場所が、ここにはあると思います。丹さんが語った言葉通り、クラフトビールという「沼」にハマり、人生を豊かにしていく過程そのものを楽しむ人々にとって、この場所は聖地となり得るポテンシャルを秘めていると感じました。
東所沢の「ところざわサクラタウン」に行けば、いつも何か面白いことが起きている。そんな毎週末の楽しみが生まれる場所。ビールを飲みながら、1000人階段で語り合い、新しいビールが造られる瞬間に立ち会う。そんな光景が日常になる日は、そう遠くないかもしれません。
秩父と所沢。秩父麦酒が描く新しい物語が始まりました。まだあなたが知らないビールの新しい喜びと、人と人とが結ばれる瞬間を体験しに、ぜひ一度足を運んでみてほしいと思います。ビールを片手に、次にどんな「面白いこと」が生まれるのかを見届ける。それこそが、クラフトビールを愛する者たちに与えられた最高の贅沢なのかもしれません。
この場所がビールを愛する者たちにとっての帰結点ではなく、新しい何かが始まり、広がっていくための出発点になっていく期待が膨らみます。丹さんというプロデューサーの視点、そして秩父麦酒のブランド力が、どのようにこの東所沢という土地を変えていくのでしょうか。まだ誰も見たことのない、秩父麦酒が切り拓く「クラフトビールの次なる地平」に注目していきたいと思います。

CRAFT BEER STAND ゆい 店舗情報
住所:埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3 本棟2階
営業時間:平日 14:00~20:00(LO) 土日祝 11:00~20:00(LO)
店休日:年中無休
テイクアウト:あり
座席:30席(立席)
ベビーカー:入店可
支払い方法:現金、クレジットカード(VISA、MASTER、JCB、AMERICAN EXPRESS、Diners Club、DISCOVER)、電子マネー(楽天Edy、iD、QUICPay、交通系IC)、QRコード決済(PayPay、au pay、メルペイ、Alipay)



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